十二月十五日 (2020)

「これから二時間後に現地で集合してください」


そう言われて最も良い時間の使い方はなんだったのだろうか。
翔太は会議が終わるなり、白いマフラーを首に巻きつけ肩に鞄を引っ掛けるとどこかへ飛び出して行ってしまった。たまには付き合ってくださいよ、なんて言うもんだから、この時間を使ってコーヒーでも飲ませてやろうと思ったのに。
外に出るのが寒くて億劫だからビルで待っていようと思ったけれど、今度は松多姉妹に連れ出されて街に出た。かんなちゃんははるちゃんとあてもなくウロウロするようだったが、どうせならおれは本屋で時間が潰したかった。
平積みにされた今年の「このミステリがすごい」で“巴里マカロンの謎” が40点をつけられているのを見つけて悲しい気持ちになった。今年で一番面白かったのに。本を戻した後にしばらく本棚を眺めて回った。やっぱり文庫を持ってくるんだった、「夜行」の続きを読んでしまいたかった。
「四畳半タイムマシンブルース」もまだ文庫化は先だろうし、欲しい本の宛もないままなんとなく「今さら翼と言われても」を手に取った。
そうか、これには「長い休日」が載っていたっけ。助かった。


どこの本屋に行っても、必ず米澤穂信は読むことができて、どこでも本を開けば折木奉太郎と会うことができる。やっぱり落ち着く。二人の掛け合いは読んでいて心地よいし、荒んだ心を引き止めてくれる気がする。飾り気も下心もない同調は、一言で傷を優しく包み込む。


「折木さん、かなしかったですね」


最高だ。まんぞく。


そろそろ忘年会に行く時間になる。会場の住所を確認しておこう。
今夜はイタリアンて言ってたっけ。