一月十五日

「夜行は天竜峡で生き返ったな」
そう思いながら埼玉県に向かっている。


明日は金沢武士団の最初の試合があるのだ。
その会場である浦和へ向けてバスに乗っている。久々の長距離移動と知らぬ間に積み重なっていた疲れで腰も痛くなってきた。


長距離移動をしながら読書をすると、いろいろな発想に出会うことがよくある。普段の変わり映えのしない生活の中ではそんな余白はないから、これはひとつ儲けものだった。


天竜峡の中で、岸田の作品の成り立ちが露わになった。岸田の作成する銅版画はおそらくそこまで精密なものではないのだろう。自身の中にある「夜」とサロンで仲間から聞いた話が合致したときに、新しい「夜行」は生まれるらしい。つまり、岸田はその話の中に登場したものしか描くことはできない、写真をなぞるように書いた模写ではないということになる。


佐伯が、「芸術とは魔境だ」と表現したのも印象的だった。魔境とは、佐伯に言わせれば、世界を悟ったと自覚した何者かが、本当は別の何かに化かされて抜け出すことのできない闇に陥ってしまったようなものらしい。たしかにそうなのかもしれない。現実に存在しないものを己のフィルターを通して世界の真実としてこの世に現そうと躍起になるのは、側から見れば何かに取り憑かれているようにも見えるだろう。そんな作品ほど魅力的に映るのも事実だとは思うが、とても斬新な見方だった。


私の仕事はどうだろうか。
今没頭しているこの仕事もまた、魔境なのだろうか。